今回の計画敷地は、新潟県上越市にある高田世界館という映画館。
上越市は、新潟県の南西部に位置し、日本海に面した「特別豪雪地帯」に指定されている。昭和61年には3m、令和3年にも2mを超える積雪を記録。東京駅からは2時間ほどで最寄り駅に到着、駅からは徒歩10分程の場所である。

この高田世界館は、創業から100年以上経過しており、稼働している中では、日本最古の映画館という大きな特徴があります。かつては多くの市民が参加するイベントが頻繁に行われ、地域コミュニティの中心としての役割も担っていましたが、その賑わいは、徐々に失われつつあるという現状もあります。しかし、建物自体は国の重要指定文化財に指定されており、現在もリバイバル映画を中心に上映しています。
サブスクなどで気軽に映画を楽しめる現代において、映画館は「『映画館で映画を見る』という体験を売る場所」が以前より強まったように感じます。その点で、昔の映画がかつて公開された空気感をまるごと味わえるというのは、この高田世界館魅力であり、大きな観光資源になり得ると考えています。
そんな高田世界館がある上越市には、解決しなければならない課題が大きく2つあります。それは地域経済の衰退と、過疎化です。これらの問題は上越市に限らず、東京一極集中に苦しむ地方の多くの場所が抱える問題ですが、今回は高田世界館の賑わいを取り戻し、魅力を増やしていくことで、これらの問題にもよい影響を与えていきます。

また、この地域の冬は、積雪により雪下ろしなどを行うと、道路が埋まってしまうことも少なくありません。
そこで考え出された伝統的な建築に、「雁木」というものがあります。雁木は、建物の道路に面した部分が通路として開放されており、アーケードのようになっています。ただ、アーケードと異なるところは、屋根がその家の敷地内ではあるが、誰もがその家の屋根の下を通ることができるという点です。この雁木は、かつては町家に付随するものとして広く取り入れられ、中間領域としても非常に魅力的な空間になっていましたが、近年では雁木のあった家も建て替えで雁木のない家が建てられることが多くなり、雁木のある街並みが徐々になくなってきています。一方で、雁木を残したいという声もあります。

コンセプトは、リバイバルです。一度は廃れてしまったものが再度評価を受けることを意味します。今回は、地域の中でなくなりつつある雁木を敷地内に取入れ、高田世界館の中に賑わいを作ることで、雁木の価値とリバイバル映画の聖地としてこの映画館を盛り上げ、上越という街の価値を高めたいと考えました。
ダイアグラムです。図の左から右へ進化させました。
高田世界館は、建物内にシアタールームと小さいチケットカウンターしかなく、あまり快適な場所ではありません。そこで、敷地内に現状足りていない機能をシアター前の広場を中央にし、映画館の分棟として配置しました。そしてそれらを繋げるように雁木を配置しました。

敷地内に人を誘い込むために、駅からの人通りが多い広場南側の道路に接している部分を面取りし、周辺の雁木からこの敷地への動線が自然となるようにしています。
新たに配置した分棟には、映画ショップ兼チケットカウンター、カフェ、雪遊び用の丘のための更衣室を含めた休憩所、事務所を設けています。

最後に広場の活用について。この広場は、屋外シアターや、イベント会場として活用することを想定しています。また、広場内に傾斜をつけているので、夏場などには、道路の雪を解かすための消雪パイプから水を引いて、イベントを行います。また、消雪パイプで使用されている水は地下水でミネラルを多く含んでいるので、水がたまる場所は石畳が赤く変化し段差が分かり安全です。
屋外シアターとして、水面に映る照明やスクリーンが映えることでしょう。道を通った人も気軽に参加しやすいスクリーンの配置を想定しています。

近年、地方の映画館や雁木というそこに住む人の余裕が失われつつあるが、この地を訪れる方々に気が付いていただけることを期待したい。

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