建築科(夜間)2年生の「建築設計Ⅱ」では、前期において「図書館」と「美術館」の2つの課題を実施します。

それぞれの課題は独立して考えて良いが、2つの施設の関係性を具体的な条件として設定し、敷地周辺環境の読み取りを行いつつ、新たなコミュニティ形成を目的とした建築計画を考えることに挑戦した。

 

積層

始めに私は、昨今のインターネットの普及によって、知りたい情報が簡単に手に入る時代に私たちがあえて「図書館」という場所へ行く理由を考えた。

 

私の出した答えは、

まず、歴史が積み重ねてきた、知識や文化の積層に直接触れること。

次に、積層の中で、新しい学びや体験を得ること。

最後に、自らも その積層の一部となって、町に還元されること。

今回私は、この循環が積層し、地域社会を豊かにする新しい図書館を計画した。

 

コンセプトは積層

知識や文化をはじめとし、体験や歴史の積層を体感する場所として、そしてついには、図書館自体が、この地域に積み重なっていくことを願って、この図書館を提案した。

 

周辺環境

前回計画した、美術館に隣接するこの敷地は、美術館と同様、桜並木を散策する人や、隣接する公園からの人の流れが、「主」となります。加えて、南東の道路、美術館からも来客が見込まれ、全方向が「表」であるといえます。また、明るく活動的な公園と比較的静かな場所が求められる図書館を、いかにシームレスに繋ぐかを検討し、私はこの役割をアトリウムに託した。

 

ダイアグラム

積層のイメージを形にしたスラブの重なりから発想を次のようにした。公園に面した側面をアトリウムとして切り取り、積層内部を部分的にくり抜くことで、内部空間を生み出した。壁がないので、内部の空間から空間へ、風や音、気配が漏れ出て、人々は同じ空気を纏いながら、人の営みの積層を、なんとなく感じていることができる。

そして、積層の隙間から垣間見える、内部の積層体験の様子は、街に対しても来館のきっかけを与えるファサードとなる。街に還元され、新たな積層となっていくことを狙った。

 

各部計画としては、フラットプレート構造を参考にし、基本的に壁はつくらず、スラブの断面が、壁や本棚等の家具、階段になる構成とした。スラブの間隔は、本棚としても丁度いい400mm毎とし、間にスラブを入れれば、蹴上200mmの階段になるよう設定した。また、意匠的な利点だけでなく、スラブの隙間からは、分散した太陽光が差し込むので、日光に含まれる紫外線から書籍を守る役割も果たす。

 

部分詳細

建物外側の四面は、スラブの間にガラスがはめ込んであり、外部との境界線をつくる。

帯状のFIX窓の存在感を消すためサッシ枠をスラブに埋め込む。

 

配置図

各導線は、道路沿い、公園、美術館からの導入を計る。搬入動線には、駐車場と駐輪場を設け、来館者との交差を避けた。

1階平面

図示のように、搬入導線に、職員出入口、事務室、荷解室らを設けた。また、地下に倉庫と機械室を計画した。来訪者用のエントランスと、ブラウジングコーナーは南側に配置した。

入り口近くの図書カウンターは広くとり、大きな吹き抜けの空間とした。窓際は春、桜並木が綺麗に見えることを狙った。奥に見える大階段は、一般開架閲覧室に繋がり、その下の奥まったブラウジングコーナーは、適度に暗く、落ち着きのある空間とした。

児童図書コーナーは、天井が低い洞窟のような場所や、寝転んだりできる、木の温もりを感じる床を用意し子供達がわくわくする空間を意識した。また、室内に飽きてしまったら、大きくとった、ガラス窓に設けた扉から、太陽の下に駆け出して行くことも想定している。

積層の道と集会場は、歴史や知識の積層を体感する場所として、重要な役割を果たす。積層の道は、美術館から来る人、向かう人が、アートと知識の積層の交わりを感じるような場所と考えた。五感で感じる作品、例えば、音声のある映像作品のようなものが展示されることを想定している。一方、集会場は、積層のずれでできた椅子に腰掛けながら、通りすがりに自由に講演を聞くことができる場所とした。スラブが、聴衆のための椅子として形を変える。

2階平面

1階の大階段を登ってすぐ、大きな面積を占める一般開架閲覧室がある。スラブがそのまま本棚になって「知識の積層」の空間を狙った。この一般閲覧室にある床開口は、積層の道と集会場に繋がる吹き抜けから、佇む人々を眺め、一階の集会場が上層に抜けるような役割を果たし、積層が縦に積み上がるイメージを膨らませるよう計画した。少し階段を下ったところに、研究エリアとレファレンスコーナーを配置した。適度に人の声が聞こえる、吹き抜けに隣接した研究エリアと、閉架書庫に隣接した、レファレンスコーナー。どちらも積層が机になっています。次に、少し登った先に2.5階を設け勉強スペースと個室、視聴覚コーナーがあり、集中して勉強したい時や篭って作業したい時などに利用できます。

最後に1階に戻りアトリウムについて。アトリウムは、11メートルを超える天井高で、まさに立方体の図書館を抉り取ったような形をしている。抉れた部分は1階と2階をまたぎ、図書館と公園、そして美術館を繋ぐ為の役割を担う。アトリウムは、公園からのみどりが入り込んだような、自然豊かな空間を狙った。また、美術館からの水盤が映り込み、アトリウムを涼しさや落ち着きのある空間にするとともに、美術館からの連続性を創造した。アトリウム2階は、読書スペースと兼ねて開放的で気持ちの良い空間の中で、緑を感じ、日にあたりながら読書ができる。

この図書館が、人の営みに、何か灯火を与えるきっかけとなりますように。

ギャラリー

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