この課題の敷地は渋谷区南西部に位置し、東急東横線代官山駅から徒歩3分の距離にある。北で渋谷、東から南にかけて恵比寿西、西で猿楽町と隣接する。住宅地のほか、ブティック、洋菓子店、レストラン、カフェなどの商業施設も多い。「代官山」は住みたい街のアンケートなどでも上位にランクインする人気地域であり、多くの人が「おしゃれ」「都会的」「閑静な」といったイメージを持つ街である。このイメージは1969年から1998年までの約30年の歳月をかけて槇文彦という一人の建築家と同じ施主によって建築された「ヒルサイドテラス」によって造り上げられたといっても過言ではない。
敷地はこの代官山の象徴とも言うべき「ヒルサイドテラス」の一群が建つ旧山手通りから程近い場所にある。この敷地の一帯は都市計画上では主に住環境を最優先させるべきエリアに規定されている。しかし、現実はメイン道路に面してはほぼ完全に商業化されている。それでも一歩裏の通りに入ると、そこはまだ住宅地としての顔も併せ持っている。つまり、街を象徴するランドマークであるヒルサイドテラスや代官山T-SITE、代官山特有の裏路地や小さなショップ、カフェなども含めて、この地域は「店舗」と「住宅」という、相反する用途が混在した街であり、この一見、規則性のない雑多さがこの街の独特の雰囲気を醸しだし、魅力ともなっているのである。
そこで、本課題では「住宅」と「その他施設」の新たな関係とバランスを再構築することをテーマとし、さまざまな家族が住む住宅と多様な用途の施設、コモンスペースを一体的に計画していく。経済性や公共性、利便性などを維持しつつ、この土地で家族と暮らす住宅としての環境(日照・通風等の快適性、プライバシー・セキュリティーなど確保)の整備及びコミュニティー(敷地内及び近隣周辺も含んだ)の新たな構築を提案する。